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独禁法
つれづれ草
公取委の審判廃止は独禁法の命取り
=消費者の利益脅かす懸念

本稿は、時事通信社発行「時事トップ・コンフィデンシャル」平成20年2月5日号に掲載されたものです

競争ルールの基本を定める独占禁止法は、市場経済体制を支えるインフラの中核であり、経済成長やイノベーションを促し、一般消費者の利益確保を究極の目的としている。従って、短期的な利害や特殊利益を反映する政治に動かされることなく、中長期的に軸のぶれない頑健な執行体制を持つことが不可欠である。公正取引委員会が独立行政委員会として組織されているのはこのためだ。独禁法見直し論議で取りざたされている公取委の審判制度廃止は、近い将来、独禁法の命取りとなる大きな危険性をはらんでいる。

現行の審判制度は、公取委の排除措置命令や課徴金納付命令に不服がある企業が申し立てた場合、公取委自らが処分の是非を判断する。同制度は公取委を独立行政委たらしめている最大の根拠であり、その廃止は、公取委を独立行政委から担当大臣を長とする通常の行政機関へと変質させてしまう大きな一歩となる。公取委が通常の行政機関となれば、独禁法が短期的な利害や特殊利益を反映する政治によってゆがめられる恐れがある。

独禁法の2つの先進性


独禁法は、一九四七年、市場経済体制の旗手、米国の独禁法である反トラスト法をモデルとして制定され、その執行機関も、連邦取引委員会(FTC)に範を採り独立行政委として公取委を創設した。米国では、FTCのほか、証券取引委員会(SEC)、連邦通信委員会(FCC)、国際貿易委員会(ITC)など、大統領府の指揮命令に服さず、政治に動かされない、独立行政委が相当数、設置されている。これらの行政機関が、大統領府から独立して合議により意思決定を行う独立行政委として組織されているのは、裁判に準じた準司法手続きに基づく審判制度を通じて専門的判断を行なわせるためである。

第二次大戦後、日本でも、米国に倣って公取委以外にも独立行政委員会の組織形態を採る行政機関が創設されたが、「日本の行政組織の伝統に合わない」、「審判制度を持たない」などとして、ほとんどが廃止された。

 独禁法は、制定以来、「風前のともしび」にもみえた何回かの危機を乗り越え、何とか生き永らえてきた。それは、独禁法が、執行機関である公取委を内閣総理大臣の指揮命令から独立して職権行使することが保障された独立行政委として組織していたことと、一般消費者の利益確保を究極の目的とすることを明示していたことの、二つの先進性を有していたからであった。

 独禁法は、制定当初から、国情になじまないとして政府の内外からの強力な緩和論や廃止論にさらされ続けた。「私が最後の委員長」と公言してはばからなかった公取委委員長も存在した。独禁法は、その執行機関が担当大臣を長とする通常の行政機関であったならば、大幅な緩和か廃止の憂き目に遭っていたに違いない。「入札談合は必要悪」として建設業に対する独禁法適用除外論も声高に主張されたことも、そんなに古い話ではない。独禁法は、その執行機関の組織形態として採用した独立行政委という甲羅に立てこもって荒波に耐えたのである。

 公取委の審判制度は、@公開の審判廷で審理を行うA被審人の防御権が保障されているB審決において被審人が争わない事実および公知の事実を除き、公開の審判手続きにおいて取り調べられた証拠によって事実を認定しなければならない―ことが保障されている。審判手続きが裁判に準じた準司法手続きと呼ばれるゆえんである。